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原子力資料情報室の声明「ALPS処理水の海洋放出決定方針に強く抗議すると同時にこれを撤回することを求める」

ALPS処理水の海洋放出決定方針に強く抗議すると同時にこれを撤回することを求める

2021年4月10日 原子力資料情報室
山口幸夫、西尾漠、伴英幸
政府は東京電力福島第一原子力発電所で発生し、タンク貯蔵されている処理水(=汚染水)の海洋放出(=投棄)の方針を4月13日にも決定すると報じられている。2020年2月に経済産業省が取りまとめた案をそのまま決定するようだ。この間、経済産業省は、福島の住民各層を中心に意見を聴取したが、農林漁業団体をはじめとして市民団体を含め多くの強い反対の声が聴かれた。これらの声を無視して海洋投棄決定を強行することは、以下の理由から許されない。強く抗議すると同時に、この方針を撤回することを求める。
1)海洋投棄に合意が得られていない
報道によれば、4月6日に菅首相と会談した全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は、「反対の考えはいささかも変わらない」と述べている。福島県内の漁業者団体のみならず、宮城県の沿岸部の漁業者団体や水産会社も強く反対の声をあげている。さらに福島県内の45市町村(県内市町村の約7割)が反対の意思を表示し、あるいは慎重な対応を求めている。福島県内観光業界も風評被害(実害)を懸念する声を意見聴取会で表明している。
国は自ら行った「関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません」との約束に反した行動を繰り返している。現在だけではなく、将来における国の約束への信頼を失わせる行為である。また、漁業者の理解を得ずに放出しないと約束した東電HDは、自らがした約束を守るなら、政府方針に反対するべきである。きわめて無責任というほかない。
2)海洋投棄強行による福島の経済への悪影響
すでに多くの漁業者等から、ようやく試験操業から本格操業に入った沿岸漁業が壊滅的な打撃を受けることになるとの声が上がっている。また、日本の東北産の物品の輸入を禁止している国々が禁止措置を強化したり、長期化させる可能性が高い。漁業のみならず、農業や観光業にもマイナスの影響を与えることになり、復興の加速どころか減速になるだろう。
3)国連の専門家らが人権侵害と警告
有害物質に対する人権に関する特別報告者、身体的および精神的健康に対する権利に関する特別報告者など、国連の専門家ら5人が「汚染水を太平洋に放出することは、子どもたちの将来的な健康リスクを高める」など、人権侵害にあたるとの声明を発表した(2021年3月11日)。
4)投棄された放射能による生態系への影響
いったん貯蔵したものを捨てることは日常運転による放出とは本質的に異なる。加えて、汚染水にはトリチウム以外にもさまざまな放射性物質が含まれている。これらの放射性物質の環境蓄積、生体濃縮などが起こりうる。また、これらの取り込みによる人々の内部被ばくが懸念される。東京電力福島第一原発事故で放出された放射能により、すでに数千万人が被ばくしている。放射性物質は薄めればよいというものではない。
5)貯蔵の継続とモルタル固化に方針を転換するべき
タンク増設のスペースはないと言われるが、それは事実ではない。確保しようと思えば可能であり、具体的な提案が原子力資料情報室ならびに原子力市民委員会など多くの市民団体によってなされている。その提案は、貯蔵の継続とモルタル固化による放出回避の方法も述べている。
あわせて、見通しが得られていない燃料デブリの取り出しをいたずらに急ぐ必要はなく、廃炉ロードマップの根本的な見直しを行うべきである。