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ランチェセコ原発の取材報告 

原発廃炉地域再生への道標」ランチェセコ原発の取材報告 

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                                  (写真/2018年1月4日)

管理(1)事前情報収集から

 2017年11月11日に釧路市でも河合弘之弁護士が監督をされた映画『日本と再生』の上映があった。映画の中で河合監督と飯田哲也氏がカリフォルニア州サクラメント電力公社(The Sacramento Municipal Utility District、以下SMUD)を訪問する場面があり、「脱原発に踏み切って再生した電力会社」として紹介されていた。この会社に興味を抱くと共に、廃炉になったランチェセコ原発の使用済燃料などが、その後どのように管理され、乾式貯蔵に至る途上で、どのような問題を解消するに至ったのかなどを知りたくなった。

1989年6月、住民投票によってランチェセコ原発廃炉が選択され、翌日には会社自らが停止を決定した。私がランチェセコ原発に特段の興味を抱くのは、同年に北海道で最初の泊原子力発電所1号機の営業運転開始(1988年11月試運転開始)により、原子力発電のゴミ、いわゆる「死の灰」を作り出し始めてしまったからだ。

 

ところで、私は取材の準備として事前に渡米前からグリーンピース・ジャパンの方の紹介で、Green Peace US(LA)、SMUDの広報担当者達数名と連絡を取り合い、興味深い情報を得ていた。

 2012年6月にはカリフォルニア州も「2020年までにすべての原発を停止する」と決定した。この決断は、アメリカでの反原発抗議運動に加え、東電福島原発事故の「取り繕いようもない過酷事故」が影響したからに違いない。

 ランチェセコ原発廃炉に向かった最大の理由は、SMUDが自ら、コストがかかり過ぎる原発廃炉にするという「経営的判断」をしたためだった。

 不具合が多く停止ばかりして稼働率が低くなり、安全対策に費用がかさんで、いつ倒産しても不思議がないくらいに経営全体が傾き、どこかに吸収されるか、倒産するかを選ぶしかない状態にまで悪化していたのが実情であった。

 

 SMUDは昨年8月、日本のNECスペースタイムインサイト社(カリフォルニア州サンマテオ)と提携し、電力事業者向けスマートエネルギーソリューションの提供を開始することを発表するなど、現在は再生可能エネルギーに主体を置いて経営立て直しを実現している。 

 同時期に、カリフォルニア州職員退職年金基金CalPERS)が、同基金の事業電力の50%をSMUDの太陽光発電電力供給プログラム「Large Commercial Solar Shares」から賄うと発表し、同プログラムの初の顧客となった。彼らは、再生可能エネルギー分野へのインフラ投資計画に積極的で、2016年にカリフォルニア州太陽光発電会社の株式の25%を取得するにまで至っている。

 つまり、すでにアメリカでは投資家たちが、「再生可能エネルギー会社への投資は安定している」と判断し、「儲かるビジネス」であると認めているのだ。アメリカでは原子力について勝手に淘汰され、脱原発が進むのだろう。一見、上手くいっているように見える。しかし、放射性廃棄物をどのように取り扱ったのかについて、SMUDに尋ねたところ、いくつかの質問には正確な数値や事情を答えてくれたが、「使用済核燃料や乾式貯蔵などに伴う質問への回答については連邦原子力委員会に問い合わせることが必要で、SMUDとしての意見はない」と答えている。

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 (2)自治体による電源選択~現地を訪ねて~

 自分が住む北海道地域の場合に当てはめてみると、滞在していたモントレー市からサクラメント市までは約187マイル(300.9㎞)というから、およそ釧路市から札幌市程度の距離。このエリアの電力供給の大半を占めるサクラメント市街地からランチェセコ原発までは40~50㎞程度離れているので、ちょうど札幌市から泊原発まで程の位置関係に相当する。

サクラメント市の人口は原発稼働中は激減する一方だったが、廃炉以降、近年はカリフォルニア州の中でも屈指の人口増加率を誇る勢いのある自治体となって再生した。

ルート101を北上して東に向かう途中に、サンルイス貯水池やダムなどサクラメント市の水瓶があった。昨年2月には長雨の被害が続いて、100kmほど北に位置するビュート郡のオロビル湖ダム(Lake Oroville dam)」が決壊する恐れがあり、放水して水位を下げたり、住民に避難警告が出されたことが報道されたが、今回、視察した限りでは周辺貯水池の水位は下がっていて、むしろ通常よりも少な目だった。

サクラメント地域ではSMUDを含む3大コージェネレーション再生可能エネルギー会社が落札し、このエリアの電力需給を支えている。

ダムや運河による水力発電も含めると、再生可能エネルギーによる発電率は2014年までに30%を軽く超える実績を記録し、2020年を目標に20%以上としていた当初目標よりも早く到達したことになる。

ランチェセコ原発にほど近いロメロ川周辺の農地用排水事業では小規模水力発電を利用していると聴いた。また、土木用土砂の掘削事業者が、独立した巨大な自家用風力発電機を設置している風景にも出くわした。(自家発電コストが安価であることを意味する)

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ダムからサクラメントまでは送電線や鉄塔が続き、幾つか変電所も見かけた。今回、移動中に、たまたま見かけた丘の上の風車群がSMUD所有の発電機器かどうかは確認できなかったが、10基ほどのうち、羽根が落ちて柱だけになり、動いていない風車があった。太陽光発電システムと比較して耐久性や回収率がどの程度なのかを知りたいと思い、この件に関してSMUDの広報官に「質疑応答の継続」を取り付けた。

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            (隣接するカリフォルニア・ワイン野葡萄畑の中にそびえたつ排気塔)

ランチェセコ原発周辺は市民の憩いのキャンプ場となっていることで有名。現在も湖を囲むエリアは公営公園として管理され、車での通行には12ドル支払うことが義務付けられていた。原発跡地はフェンスで囲まれ、丘陵地帯の葡萄畑が延々と続く中に2つの大きく象徴的な排気塔が突然現れると、圧迫感がある。

跡地の敷地内、建屋のすぐ横に天然ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)方式の発電所の管理塔(ウッドグループ/Wood Group Power Operation)があり、カリフォルニア・ワインカントリーの葡萄棚が続く農地用通路の入り口から、湯気が出ている巨大で金属的な印象の建屋が見渡せた。

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 周回路を通り抜け、別の入り口ゲートの両側には太陽光パネルが敷き詰められていたが、六ヶ所村でもっと多くのパネルを観ていた私は、「なんだこんな数しかないのか」と思ってしまった。目標を達成した2014年以降も、SMUDはサクラメント周辺に多くの太陽光パネルの設置を継続しているらしいので、別な場所に更に数多くパネルがあり、発電量なども設置数の増加に伴い、刻々と変化していると思われる。
(※SMUDおよび連邦原子力委員会へ回答待ちの質問項目あり)

   報告:マシオン恵美香

      ベクレルフリー北海道・脱原発をめざす北電株主の会 

 

 以上

 ※この原稿は、脱原発・東電株主運動事務局が発行した

 「脱原発東電株主運動ニュース」NO,271(2018年1月14日号)に掲載された。

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<関係情報>

https://www.smud.org/en/Going-Green

SMUD

河合弘之弁護士監督 映画『日本と原発』『日本と再生』公式サイト

日本と再生

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 ※ランチェセコ原発は稼働当時、91万3000Kwの出力能力があり、SMUDの電源構成の50%ほどを担っていた。廃炉後の使用済燃料はサウスカロライナに移送とされていたが、2014年の報道では計画通りには進んでいないとの報道もあり、乾式貯蔵までの詳細については連邦原子力委員会からの回答待ち。

 

f:id:emikamassion:20180118100451j:plain 脱原発東電株主ニュース 271号