becquerelfree’s blog

NO NUKES,ONE LOVE

北電力泊原発敷地内の活断層への新規制基準適合性を問う

北海道電力泊発電所(泊原発)敷地内の「活断層」     <たんぽぽ舎メルマガからの転載>
 |  新規制基準適合性審査における原子力規制委員会
 |  学会の役割を問う
 └──── 小野 有五 (北星学園大学)・
       斉藤海三郎(「行動する市民科学者の会・北海道」)

  *「日本活断層学会」HP-『日本活断層学会2016年度
                秋期学術大会講演予稿集』より引用

1.はじめに

 北海道電力泊発電所(以下、泊原発と略称で呼ぶ)は、北海道西部、積
丹半島の基部に位置し、海成段丘(注1)を掘削した敷地に1~3号機の3
つの原子炉が建設されている。
 北海道電力(北電)は3号機の再稼動を目指しており、原子力規制委
員会の「新規制基準適合性に係る審査」では、2013年7月以来、2016年8
月まで、活断層など泊原発へのリスクとなる自然現象についての審査会合
が計50回、非公開のヒアリングは計71回、行われてきた。

 審査会合については、当日の議事内容、北電が提示したパワーポイント
などの資料のほか、会議の内容もYouTubeで公開されており、一般市民も見
ることができる(ヒアリングは議事録要旨とパワーポイント資料のみ公開)。
 演者らは、インターネット上に公開されたこれらの資料を分析してき
た。北電は、泊原発敷地内にあるF-1断層が、「岩内(いわない)層」を
変位させていることを認めているが、北電は、「岩内層」のFT
年代(注2)は120万年前であり、前期~中期更新世(注3)の地層なので、
F-1断層活断層とは認められないと主張してきた。

 しかし、北電の資料を詳細に検討すると、北電の主張する「岩内層」の
年代には科学的な根拠がないことが明らかになった。
 また、北電が提示した敷地内のトレンチ断面の写真では、海成段丘面を
つくるはずの厚い海成層を段丘堆積物と認めていないなど基本的な誤りも
見受けられる。

 これらの問題点が明らかになったので、演者らは岩内平野での現地調査
を実施した。本報告では、そこで得られた知見をもとに、北電の主張して
きた泊原発敷地内の「岩内層」は、前期~中期更新世の地層ではなく、
約33万年前のMIS9、約35万年前のMIS10に相当する地層である可能
性がもっとも高いことを述べる。これによれば、F-1断層は、明確に40
万年前より新しい地層を変位させていることになり、3.11以降の新規制基
準に基づけば「将来活動する可能性のある断層等  」となる。
  なお、調査費の一部に高木仁三郎基金助成金を使わせていただいた。

2.北電による「岩内層」の年代決定への疑問

 3.11の東日本大地震津波による福島第一原発の過酷事故への対応を迫
られた政府は、原発を有する電力会社から、「地震津波に関する意見聴
取」を行った。
 北電が「岩内層」の年代について初めて言及したのは、平成24(2012)年
7月17日に開催された第19回の会合においてであった。「参考 岩内層に
ついて」というパワーポイントが1枚だけ示され、そこには、「岩内層は、
岩内平野に分布し、砂・礫等からなり、砂礫は葉理がよく発達する。本層
は、岩内平野において丘陵背面を形成し、丘陵斜面が洞爺火砕流堆積物に
不整合で覆われている。本層の形成年代に関しては、砂層中の凝灰岩を対
象としたフィッション・トラック法年代測定値1.2Maプラスマイナス0.2
Ma(注4)が得られている。これらのことから、本層の形成年代は前期~
中期更新世と判断される」と書かれ、岩内台地での露頭写真と、その拡大
写真が1枚ずつ示されている。

 しかし試料測定地点や測定層位も示されておらず、拡大写真も不明確
で、「砂層中の凝灰岩」が写されているのかどうかも明らかにされておら
ず、測定試料の詳細は不明である。
 2013年からは泊原発3号機の再稼動をめざす審査が始まり、北電は、
毎回、100枚を越えるような多数のパワーポイント資料を提示しているが、
「岩内層」の年代に関する詳しい資料がそこで提示されたことはない。測
定地点や測定層位など基本的データすら現在に至るまでまったく公表され
ないままである。それだけでも、科学的な年代測定とはいえないが、より
根本的な問題は、北電が、「岩内砂層」中の「凝灰岩」の年代を測って、
それをそのまま「岩内層」の年代としていることであろう。

 砂層のなかに取り込まれた外来礫としての「凝灰岩」の年代を測定して
も、それがそのまま砂層の堆積年代にならないことは明らかである。
 まずこの点からして、北電の主張する「岩内層」の年代なるものは地球
科学的に疑問である。

3.地形面を無視した北電の「岩内層」の対比

 次に問題なのは、北電が年代測定をしたとする岩内台地の「岩内層」の
位置づけである。岩内台地は、リヤムナイ台地とも呼ばれ、岩内町市街地
の背後に広がる標高25~30m程度の平坦な台地であるが、すでに渡辺(真
人)ほか(1990)、赤松ほか(1992)はこれを最終間氷期の海成段丘面とし、
それを構成する砂層である「岩内層」は、MIS5eに相当する海成層と
推定している。また、日本全国の海成段丘面を分類、地図化した小池・
町田(2001)も、これをMIS5eの海成段丘面に分類している。

 しかし北電は、今日に至るまで、前2者の論文は参照すらせず、小池・
町田(2001)を否定する科学的根拠も示せていない。
 演者らの調査結果からいえば、北電が「岩内層」と一括してきた地層は、
場所によって、堆積年代のまったく異なる、更新世の複数の海進の堆積物
であると考えるべきことが明らかになった。
 すなわち、岩内台地では、前述したように、それは約12.5万年前のMI
S5eの海進に対応する砂層であり、泊原発敷地内では、MIS9の海成
段丘面を構成する海成の砂層と、その基底礫層(MIS10に相当する地
層)と考えられる。

 したがって、泊原発敷地内でF-1断層が変位させているのは、明らか
に40万年より新しい地層であり、「後期更新世の地形・堆積物がなく、後
更新世以降の活動を判断できない場合」の基準に照らせば、F-1断層
は、明らかに「将来活動する可能性のある断層等」となる。

4.原子力規制委員会と学会に望むこと

 以上述べたように、北電が原子力規制委員会の審査で主張していること
には重大な誤りがある。
 これは、たんに敷地内の「活断層」の問題にとどまらず、積丹半島周辺
地殻変動の解釈に関わる問題であり、看過することはできない。

 原子力規制委員会がこうした明らかな誤りを見抜けなかったのは、規制
委員会に、海成段丘やその地層を判断できる専門家がいないためであろう。
 また、たとえ専門家がいたとしても、実際に現地を歩いていないと、電
力会社が自らに都合よくまとめあげた資料の問題点を見抜けない可能性も
高い。このような場合には、やはり、多様な専門家を有する学会がその不
足を補うべきであろう。
 日本活断層学会のような学会は、研究成果を積極的に提供するだけでな
く、規制委員会に対し問題点を指摘して、より科学的な審査を要求すべき
であろう。

 規制委員会もまた、積極的に外部から知見を取り入れる努力をして、科
学的に意味のある適合性審査を行っていただきたいと望むものである。

※「事故情報編集部」より、文中に4つの(注)を追加しました。
 ご参考になれば幸いです。

注1:「海成段丘」 (コトバンクより)
      世界大百科事典内の海成段丘の言及【海岸段丘】より
…過去の海面に対応して形成され,海岸付近に分布する階段状の台地(段
丘)地形で,段丘崖とその前面の平たんな台地面(段丘面)の組合せからな
る。
 海の作用によって形成された段丘であることを強調して,海成段丘
marine terraceということも多い。それらの地形は,かつて海面近くに
あって,おもに波浪の浸食作用によって形成された海食崖と海食台が,そ
の後陸地の隆起または海面の低下により離水して陸上に保存されているも
のである。…
https://kotobank.jp/word/%E6%B5%B7%E6%88%90%E6%AE%B5%E4%B8%98-677161

注2:「FT年代」 (Wikipediaより)
 フィッショントラック法(FT法、fission track)とは、放射年代
測定の方法の一つである。
 鉱物中に含まれるウラン238は、アルファ崩壊のほかに自発核分裂
(spontaneous fission)をおこす。その際、鉱物中に飛跡(track)を残
す。測定試料を研磨して、さらに適切な方法でエッチングして飛跡を顕微
鏡下で観察可能な大きさまで拡大し、研磨面にあらわれた飛跡を数え、飛
跡密度をもとめる。鉱物中のウラン量が判れば、飛跡の密度は自発核分裂
の壊変係数と時間の関数になる。したがって、飛跡密度とウラン量から鉱
物の形成年代を求めることができる。ウランの定量は、飛跡を測定した後
の試料に原子炉で中性子線を照射することで、ウラン核分裂を引き起し
てできる誘導トラック数を数える方法が、一般的である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B3%95
 より

注3:「更新世」  (Wikipediaより)
 更新世(こうしんせい、Pleistocene)は地質時代の区分の一つで、
258万8千年前から11,700年前までの期間。第四紀の第一(前半)の世。
かつては洪積世(こうせきせい、Diluvium)ともいい、そのほとんどは
氷河時代であった。更新世は、前期、中期、後期に分けられる。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B4%E6%96%B0%E4%B8%96 

注4:「Ma」
 数字の単位(Ma)は100万年前を表わす。例えば中生代新生代の境界
は65.5Ma、すなわち6550万年前ということになります。
 「国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター」より
  https://gbank.gsj.jp/geowords/index_glossary.html


┏┓
┗■規制委は北海道電力泊原発活断層調査をやり直させるべき!
 |  小野有五さんと渡辺満久さんが活断層学会で指摘した
 |  原子力規制委員会の審査能力不足
 |  原子力規制委員会原発再稼働推進委員会!その116
 └──── 木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

 10月29日と30日に東京で「日本活断層学会2016年度秋季学術大会」が開
催された。そこで2人の著名な専門家が規制委の審査の問題点を指摘した。
 小野有五さん(北星学園、北海道大名誉教授、地球生態学・環境地理
学・景観生態学)は、<北電による「岩内層」の年代決定への疑問>、<
地形面を無視した北電の「岩内層」の対比>を説明し、<北電が原子力
制委員会の審査で主張していることには重大な誤りがある。これは、たん
に敷地内の「活断層」の問題に留まらず、積丹半島周辺の地殻変動の解釈
に関る問題であり、看過することはできない。…。原子力規制委員会がこ
うした明らかな誤りを見抜けなかった…>と指摘している。
 一方、渡辺満久さん(東洋大、変動地形学活断層研究)は、<常識的
な手法・考え方が、泊原子力発電所敷地内の断層評価においては適用され
ていないことを指摘し、発電所敷地内の層面滑り断面は、原子力規制委員
会が定義する「将来活動する可能性のある断層等」であることを否定でき
ないこと>を示し、<原子力規制委員会の審査能力には大きな疑問を感じ
ざるを得ない。専門家を交えた正しい審査を実施することが必要である>
とまとめている。
 このことは、北海道新聞でも10月31日に<泊原発周辺の隆起は「地震
性」専門家2人、学会で発表>で、<泊原発再稼働に向けた原子力規制委
員会の適合性審査で焦点になっており、今後の議論に影響を与えそうだ。
 積丹半島西岸の地形について、北電は「地震ではなく広域的にゆっくり
と隆起した」と主張しているが、27、28日に規制委が行った現地調査でも
十分な説明ができず、今後の審査会合で議論が続く見通しだ。>と報道し
た。
  http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0332898.html
 7月には、島崎前委員長代理の基準地震動の算定方法の問題指摘に対し
て専門家としての役割を果たせなかった石渡明委員が現地調査をしたそう
だが、「原子力マフィア」出身でない唯一の委員の良心を示し、少しは<
科学的に意味のある適合性審査>を行うべきだ。
 そうすれば、泊原発を再稼働することはできなくなるはずだ。