「泊原発の安全対策等に関する地域説明会」(4月開催分)における
住民の質問の整理と北電の回答における問題の分析
行動する科学者の会 斉藤海三郎さんからの情報
北電は4月13日を皮切りに泊原発の新規制基準にもとづく安全対策等について、関係市町村の住民を対象に5町18会場で説明会を開催した。連休明けから6月初めまで6町村23開場で説明会が予定されている。これまで開催された説明会での質疑応答メモを参考に、論点別に質問を分類・整理し、そこにたいする北電の回答における問題を分析する。前回の資料(2011.4.11)と併せて、今後開催される説明会における質問や反対意見表明に参考にしていただきければ幸甚である。
1.地域説明会における「北電資料」による説明と質疑応答の概要
(1.1) 北電の配布資料
① 原子力発電所の新規制基準と泊原電所の安全対策(パワーポイントのスライド全60ページ)
② ほくでんエネリーフ(全15ページ)
③ 説明資料に関する用語集(全14ページ)
④ 北電ホームページの写し(全2ページ) いずれも北電ホームページからダウンロード可
(1.2) 説明
- おもに①のスライドを映して説明。P14まで説明したあとDVD(安全対策に関する動画)を約10分間上後、①に戻り説明をP47まで継続。全体で約50分。
- 新規制基準により要求されている安全対策は万全を尽くしてすべて実施していること、また重大事故が発生した場合、その拡大を防止する対策も十分していること、さらに北電独自に設備を設置するなどの対策をうっていることを強調。
- 説明と資料の印象として、福一事故の原因(とくに原子炉内の設備の損傷・故障など)が未だ究明されていないにもかかわらず、津波説に単純化。福一事故から教訓を引出し、真剣に学ぼうとする謙虚な態度は見られない。
- ①の資料で決定的に欠けていることは、放射線についての説明が非常に少ないこと。③の「放射性物質」の用語解説に身体への影響に関し少し説明があるが、②のP8-9では「身近、心配不要」論を振りまいており、大きな問題を含んでいる(後述)。
(1.3) 質問と回答
- 技術的な内容については、いろいろ疑問があっても、原発について一定の知識を持っていないと、質問しづらい部分があり、資料について事前の検討が有効と思う。
- 質疑応答の時間は約35分~130分(要求に応じて変動!)。北電が回答時に必要に応じ、追加スライドも使い説明(たくさん書いてあって、読みにくい。コピーはない)。ときどき詳細は①のP50以降、または②をあとで参照するように言及。
(1.4) 質問内容による分類と質問・回答の整理方法
- ここで整理した質問は、泊(堀株、茅沼)、積丹(余別、美国)、共和(南幌似、西部住民センター)、ニセコ(西富、曽我、ニセコ町民センター昼・夜、近藤、福井)の各会場で、参加者の有志がまとめた議事(Q&A)メモに記載あるものに基づく。
- 質問を内容によりテーマ別に分類し、それに関連する個々の質問を列挙したがすべてを掲載したわけではない。
- いくつかの会場にわたり、同じような内容の質問がある場合は、一つにまとめた。出来るだけ幅広く、多くの質問を取り上げるようにした。
- テーマごとの質問に対する回答は、個々の回答内容は省略しできるだけ全体としてまとめてとらえ、重要あるいは今後さらなる追及が必要と思われる内容について、問題点の指摘やコメントを加えた。
- 北電からの回答については、同じような質問に対して、会場によって説明者が異なる場合があり、説明内容にいくらか違いが認められるが、それは取り上げない。
- 個々の質疑応答の詳細を知りたい方は、後志・原発とエネルギーを考える会がWeb上で共有しているファイル、各会場における議事メモを参照されたい。
2.テーマ別に分類した質問集 (一部北電の回答を含む)
(2.1) 民主主義に関わる問題
- やらせに対する反省と謝罪。 A:謝罪あり。
- 質問者の氏名・住所の表明要求の撤回を。 A:撤回した会場もある
- 質問時間30分の制限の撤廃を。
A:要求した会場では延長が可能となり、2時間超になったところもあった。
- 説明会の民主的運営の要求。 A:約束した
- 説明会の日程設定における問題と課題。 A:今後検討する
- 説明者には机があるのに、聴衆には机の配置がない問題。 改善なし
(一部の会場で当該町村の出席者を優先させるという理由で、他町村からの出席者をいったん待機させるという差別的な扱いをした問題が発生している。なお、参加条件に関し、北電本社への電話による問い合わせにたいし、その地域に住んでいない人でも自由に参加できるという回答が得られている)
- 小さな事故でも住民に知らせるか。事故が起きた場合、放射能の流れなどの情報は提供されるか。 A:緊急事故対策会議が決める
- 今回の説明下での内容はどのように町民に返されるか。 A:HPに掲載する
- 泊原発の現場を見たいが可能か。 A:可能
- 5km圏内と30km圏内で協定に差があるのはなぜか A:明確な回答なし
(2.2) 北電の経営計画、原発の今後・将来計画に関する問題
- 責任ある役員が出席して、北電の将来計画を示してほしい。
- 避難計画の実効性が検証されていない、廃棄物の処分方法が決まっていないでどんどんたまる状態での再稼働は企業倫理にもとる。 A:無回答
- 人として正しいことをしているのか。 A:無回
- 30年・40年後に廃炉を想定しているか
- 北電の社長が以前新聞で「将来原発は建てない」と発言し、「立派な社長だ」と思った記憶があるが、それはどうなっているか。
- 将来的に原子力に一本化するか
- 1・2号機が10数年後に40年になる。廃炉か、廃炉になったら新規原発建設か、再生可能エネルギーも含めた経営の将来計画はどうなっているか。
- 原発に固執する理由はなにか、原発を続ける本当の理由・再稼働の理由を聞きたい。
- 新基準に対し考えている対策をすべて行っているから再稼働か。
- 原発へそれだけの膨大な投資をするなら、再生可能エネルギーへの転換へ投資を。
- 電気不足はないから原発の稼働は不用・再生可能エネルギーの使用
- 石狩新港にガス発電を建設中だ。原発なしでやっていけるのでは?
(2.3) 原発の経済性に関する問題
- 原発が止まっているから電気料金値上げか。この工事費は電気料金に含まれるか
- 原発の発電コストが本当に安いか説明聞いても信じられない。
- シェールガス発電との競合がこれから激しくなると思うがどうか。
- 電気料金を2回も値上げして、今回利益を出しているが、値下げがない、おかしくないか。
- 発電の構成比はどうなっているか
- なぜこんな危険なもの(泊原発)を動かすのか
- 原発は制御を失うと、他の火電事故とは異質の大災害になる。原発は石炭・石油・ガス火電などと同列に扱うべきではない。放射線の発生が致命的な欠陥。原発を動かすと必ず被ばくによる被害者(放射性物質の放出、運転中、定修中)が出る。使ってはならない技術。
- MOX燃料の使用は検証されているか。検証のないまま運転するのは危険。
(2.5) 原発の安全性全般に関する問題
- 絶対安全と断言できるか。絶対安全と言えるならいいが、保証できるか。
- 100%事故を起こさないのがキーポイント。安全に対する万全の対策と事故を絶対起こさない方策が必要。それが保証できないなら再稼働はあり得ない。
- 「想定外」はありうるか。絶対安全といえるか。
(2.6) 新規制基準そのものおよび適合性審査に関する問題
- 合理性を著しく欠く国の基準の作り方に意見具申があってしかるべき。A:無回答
- 大津地裁で新規制基準を満たしただけでは不十分で、事故は起こり得ると言っている。
- 「規制委員会の適合性審査で概ね了解された」という「概ね」の意味は?
- 「新規制基準は世界で最も厳しい」と言っているが。正しくない。
- 適合性審査に出している北電の地質関係の資料で、解釈が非常にユニークだ。例えば積丹半島の地震性隆起の否定、岩内層の年代推定などは学会で広く受け入れられている定説と異なるが、専門家やコンサルタントの協力でまとめているのか。
(2.7) 原発事故原因および事故対策の実効性に関する問題
- 事故原因
- 福島事故の原因をどう考えているか
- ヒューマンエラーの発生頻度はどれくらい考えているか。
- 訓練の有効性など
- 事故対策訓練の有効性に疑問。訓練していても訓練通りにいかない場合が多い。
- 夜間運転時の対応人数41人でほんとうに対応できるか。緊急時の応援人数500人の招集と移動の実効性とくに厳冬期の荒天時が疑問だ。そのような場合、どれくらい時間がかかるかシミュレーションしているか。
- 冬季訓練は何回か。その有効性は疑問だ。たとえば、今年2月にあった冬季爆弾低気圧のような気象時、道路閉鎖も多かったが、そのときの対策の有効性をどう考えているか。
- 緊急時招集に備え、日常的に構内の除雪・排雪は十分か
- 重機があってもオペレーター不在の時動かせない。
- 津波対策
- 大きな津波がきて、周辺の道路が被害を受けたとき、高台に配置した車用は動かないのではないか。自前の重機による道路修復に何時間かかるか。
- 津波で水が入った時どうするか。
- 設備・配管
- 重大事故対策のほとんどは同種の設備や機器の数を増やすなど従来の対策の延長であるが、これまでと異なる抜本的な対策といえるものはなにか。
- 福一事故で非常用復水器系の配管における破断の可能性が指摘されているが。
- 固定していない配管部分の破断の恐れに対する対策はどうか。
- 配管の全長はどれだけか、すべてに対策は採られているか。
- 地震対策
- 建屋部分の岩盤の安定性・地すべり対策は十分か
- 基準地震動は何ガルか、安全裕度はいくらか。北電として基準地震動を見直すつもりはないか。
- 使用済み核燃料プールはどのような耐震補強がなされているか
- 免震重要棟を作る気があるか。緊急対策所とは重要免震棟のことか。
- ベント設置と緊急時のベント操作に関する問題
- 新規制基準におけるベントの設置は旧基準からの重大な変更だが、これにより放射性物質が空気中に放出され、周辺住民は被ばくすることになる。拡散の予想はどうなっているか。最悪のケースではどうなるか。
- フィルターつきベントはいつ設置するか、誰がベント操作をするか
- 放射能の拡散は放水で防げるか、冬季は凍るのではないか。その時の放射能汚染水対策はどうなるか
- 火山爆発の影響
- 原発稼働期間中に爆発はないとしているがその期間としてどれくらい考えているか
- テロ対策
- 有効性に疑問。
- サイバーテロ対策はどうなっているか。
- ミサイル攻撃への対応はあるか。
- その他
- 海水温の上昇がみられるが、泊原発の影響ではないか。
(2.8) 避難計画
- 避難時に自分で動けない人の実態を把握しているか。
- 避難路の確保が困難。どう対応するか。
- 共和から国道5号線に抜ける避難路は5年後を予定している。完成前に再稼働ありか。
- 複合的な災害が起こった中で原発事故があると避難できない。逃げるところがない。対策はあるか。
- 避難計画の実効性が未検証のまま再稼働はあり得ない、アメリカで新規に完成した原発が、避難計画を作ることができないという理由で、一度も運転されずに廃炉になった例がある。
- 「万全の対策」といいながら、そうでないことは避難計画の一つをとっても明らかでないか。
- 5km圏内と30km圏内で避難基準に差がある。合理性を著しく欠く国の基準だ。
- 北海道消防協議会と連携し対策強化をしてはどうか。
- 原発事故時の放射線物質の拡散シミュレーションをしているか、最悪のケースの時どうなるか。
- SPEEDIで試算しているか。
- 泊原発で福一並みの重大事故が生じた場合の死傷者数、放射能汚染レベルと範囲についてシミュレーションしているか。収束にかかる経費・賠償金の予想は?
- 事故時に国へ通報しなければならない放射線量は?避難指示命令が出るのは通常の何倍の時か
- 放射能の測定の放射線種はなにか。測定できない核種をどうするか。
- 敷地内の測定器が動かない場合どうなるか。
(2.10) 使用済み燃料および高レベル放射性廃棄物に関する問題
- 使用済み燃料の現保管数、保管にどれだけ余裕があるか、最終処分はどうなるか
- 六ヶ所村の再処理施設は動いていない。トラブル続きで、再処理できる状態にない。何十年原発敷地に保管するつもりか。
- 高レベル放射性廃棄物の最終処分方法も決まっていないのに再稼働は無責任でないか
- 地層処分というが、日本とスウェーデンなどの地層は全く異なる、何年管理し続けるか。
(2.11) 被ばくが健康へ及ぼす影響に関する問題
- 原発は内部被ばくが問題。
- 内部被ばくをどう認識しているか。
- 低線量被ばくを考えなければならない。
- 100mSv以下の被ばくの影響の危険性を検証することが重要だ。
(2.12) 事故に対する補償
- 事故に対する責任は誰にあるか。補償金額はどうなるか。
- 風評被害に対する補償はどうなっているか。
- 海外観光客に対する補償問題・国際的な信用問題をどうする。
3.質問全般における特徴、北電の回答における特徴と問題点
(3.1) 質問全般の特徴
- 参加した人および質問した人のほとんどは、原発および再稼働に対して、はっきりと反対の意思をもっているという印象。
- 原発について、内容的に非常に幅の広い観点から多面的に質問がだされた。しかし、説明を受け、その場ですぐ質問をするという形式であり、質問時間も限られていることもあり、原発についてそれなりの予備知識がないと質問することが難しい面もあったと思われる。
- 上記の制約の下で、さらに北電の不誠実な回答が重なり、質問全般にわたって、突っ込みが足りなかった、噛み合わなかったといった感がある。
- それを乗り越えるために、ある人は何度か異なる会場に出席し、同じテーマの質問を繰り返すことにより、北電からある程度の回答を引き出した例やその後開催される説明会場で何らかの回答を準備するよう求めたりした例がある。
- また、一問一答方式で北電の回答を求めた人もいたが、北電がまともに答えず、質問をそらした別の回答でごまかした例もある。この方式の工夫により、本質的な回答を引き出すことができれば、有効な方法になり得るのではないか。
- 今後の対応として、初めに質問事項を明確にしたうえで、質問の趣旨を説明する、質問と反対意見やコメントの表明と区別するなどの努力が必要ではないか。
(3.2) 北電の回答の特徴と問題点
- 北電の説明者用に問答集・模範解答があるようで、回答はどこでも「型」通りで、無味乾燥の感があり、内容的に繰り返し・重複が多かった。以下は議事メモ作成者の感想:
- 「ほくでんの説明は誠実さが欠如している。質問に対し、聞きたいことには答えない。さらに説明は親切を装った、ゆっくりとしたもので慇懃無礼の典型と感じる。・・・北電の意識は全く変わっていないと思わざるを得ない。」
- 「各種の安全対策が必要なほどに危険な原発をあえて運転するのはなぜか。安全な発電に切り替えていくという企業姿勢が見られない。ひととおり『安全対策』なるものを聞いても、机上の空論にすぎない。・・・むりくり、原発を稼働させるという企業姿勢に疑問を感じる。」
- 「計画の段階でありながら、さも現実にやっているように説明する。たとえば、廃棄物も再処理して安全に処分できますとか、(配管の補強工事をやっていますとか、重大事故の対処拠点とか、)勘違いや誤解を生みやすい。」
- 北電が回答したくない、あるいは十分回答できない質問に対しては回答を避けたり、方向をずらしたりして、ごまかす。あるいは通り一遍の説明をし、最後は「安全対策に万全を尽くしている」、「事故になっても進まないよう対策を打っている」、「安全対策には限りがないので、今後も努力を続ける」という結論に持って行くという例が多かった。以下は議事メモ作成者の感想:
- 「『パイプ破断防止の補強法』、『避難計画作成(=原子力事業者として最大限の支援・協力)』、『過酷条件下の訓練』、『放射能拡散シミュレーション』、『地層処分』などに関する回答は不十分、不正確な内容が多く含まれている。一部未回答のものもある。」
- 「地域防災計画が、それぞれの自治体で『策定済み』という答えがあったが、その実効性は検証されているか。・・・『すでに策定済み』というのは非常に不誠実な答えだ。確かに策定はされたが、・・ほんとうに効力を発揮するものなのか、・・確かめないままに、再稼働など許されない。(そうだ、の声あり)」
- 高浜原発の再稼働差し止め裁判における大津地裁判決の内容や「新規制基準は世界で一番厳しい」というのはおかしいという意見に対し、北電の考え方を問われ、「それは別の組織のことなのでコメントを控える」と回答を避ける。
- いくつかの重要課題に対して、検討していないので回答できないあるいは回答不能という深刻な問題が明らかになった。いくつかの例を挙げる:
- 40年経った原発を廃炉にするか(20年延長の可能性を表明)、今後もずっと原発を続けるのか、再生可能エネルギーに切り替えるのかなど、原発の将来について経営方針や計画が不明。
- 最悪の事故の場合、住民への影響はどうなるか、放射性物質の拡散のシミュレーションをしていないのかという質問に答えられない。考えていない。
- ベントによる放射性物質の放出や、閉じ込め機器・容器や建物からの放射性物質の漏えいにより、周辺にどのようにそれが拡散するかを北電が全く考えていない。これでは実践的な避難計画は立てようがない。
- 事故原因を自ら作り出すことになるにもかかわらず、避難計画は北電にとっては、他人ごととしか考えていない。「自治体が避難計画を作っている。国が検討している」という回答にその態度が如実に示されている。
- 安全対策と事故対策を十分していても、事故は起こり得ると説明しながら、実際に事故が起こることを想定していないと思われる。彼ら自身「これだけ対策をとっているから、まず事故は起こらない」と再び安全神話の呪縛に陥っているのではないかと疑われる。
- その結果、事故対策をすべて突破するような事故が実際に起こった時、すぐ対応ができない可能性が高い。
使用済み燃料の処分の問題に対し、六か所で再処理する、最終処分は地層でする、国が検討していると回答。後のしりぬぐいは国の仕事ととらえ、自らの重大な問題としてとらえていない。
- 事故対策でも机上の訓練や非現実的な仮定の上での訓練があるので、厳しい目で検討が必要。例えば、ベントなどによる放射性物質の拡散を防ぐため、放水砲を使うと敷地にホットスポットができて、近づけなくなる場合も考えられ、その結果として、対応ができない対策もあるのではないかという視点で要検討。
- 内部被ばくについてはヨウ素だけは認める。しかし低線量被ばくに対し、相変わらず、古めかしい説を引用し、宣伝している。思考が化石化している。住民を被ばくから守るためには、これに対する全面的な反論が必要(後述)。
- 事故による損害賠償も国の施策に全面的に依存。事故の意味を真剣に考えていない。これは東電の現在の損害補償の問題と同じ。独自に保険に入っていると答えているが、具体的に契約内容や限界などについて追及する価値があるだろう。
- 北電は原発周辺・近傍・敷地地下の活断層については、絶対認めないという立場から、その存在の全面的な否定や、定説から外れた無理な解釈をしている。いつか破綻する可能性がある。専門家の協力による解明が必要。これは基準地震動の設定の問題と連動する。
4.論点の整理と課題
(4.1) 説明会開催の北電の意図とそのとらえ方
民主主義の立場から説明会をどうとらえ、活用するか。説明会への参加の意義はなにか、そこでの獲得目標をどうするか。反原発運動などの市民運動とどう結びつけるか。
(4.2) 規制委員会、新規制基準、適合性審査などについて
規制委員会、新規制基準、適合性審査とはなにか。新規制基準の内容や適合性審査会合における審査の問題・課題はなにかについては前回の資料を参照。
(4.3) 北電の説明と資料、回答における主要な問題と課題
これまでの説明会の内容を検討すると以下のような問題と課題が考えられる
① 不十分な意識改革が新たな「安全神話」を生んでいる企業姿勢と倫理の問題。
② 原発の根本的な問題・放射線の危険性に関する認識がない問題。
③ 安全対策の限界と過酷事故対策の実効性などに関する検討が不十分な問題。
④ 原発の過酷事故の大きさと放射性物質の拡散に関する検討が欠如している問題。
⑤ 避難計画の作成に対する責任放棄と各自治体の現状についての認識の問題。
⑥ 5km圏内と30km圏内で避難基準に差がある問題。
⑦ 使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の保管および処分に対する無責任な態度の問題。(核燃料サイクルを前提とする六ヶ所再処理施設運転、高レベル放射性廃棄物の最終処分方法、最終処分場選択などの問題を含む)
⑧ 被ばくが健康へ及ぼす影響に関する問題。
⑨ 事故に対する補償の問題。
⑩エネルギーベストミックスの考え方批判とエネルギー政策の問題。
⑪ 過酷事故の進展過程と最悪過酷事故のシナリオの解明およびそれぞれの段階に応じた避難計画作成の課題。独自の避難計画作成または避難不可能の根拠の追究など。
5.各論点と課題への対応方法
(5.1) 北電の説明会のねらいと対応
- この説明会開催のねらいは、地元自治体以外の、おもに30km圏内の地域住民に焦点を当て、一定の理解を得、再稼働の条件を整えるということだろう。
- これは北電が自主的に率先して住民の理解を得ようとする努力の中で開催するものではなく、北海道知事などの外部からの要請を受けて、しぶしぶ開催するものであるところに民主主義の根幹にかかわる問題があるというべきだ。
- 北電の基本的な姿勢・考え方は、国の規制を最低限のレベルでクリアできれば、それでよい、自ら進んで、安全対策などに金は出来るだけかけたくないという、いわゆる人命よりも利益を優先するものだ。これをいろいろな質問を通して明らかにすることが重要だろう。
- 説明会への参加は北電の原発再稼働に対し「住民に説明し、一定の理解が得られたので再稼働する」するという口実を与えるものだという意見がある。これをどう考えるか。説明会を民主主義の問題として考えれば、住民の意見を反映させる機会であり、一歩前進ととらえ、北電に対し以下の課題などについて質問し、問題点を明らかにし、確認することが重要と考える。
- 民主主義的な手続を重視し、原発について適切な情報を住民に提供し、理解を求め、住民の意見を反映させる。住民合意をどう形成するか、再稼働などの手続をどう民主的に進めるかなどについて北電の考え方を明らかにする。
- 安全対策や過酷事故対策が妥当かどうかを住民が判断できるように、丁寧に説明する必要がある。事業者と住民の間の信頼関係をどう築くことができるかという問題に事業者は積極的に取り組むべきである。
- 正確な情報が迅速に流れるかどうかは住民の生命財産の将来を左右する。例えば、メルトダウンは最悪の場合どのようになるのか。複数号機の連鎖メルトダウンの場合はどうなるか。どんな被害が予想されるか、など。
- 新規制基準は稼働を認めるか否かの判断だけであり、基準の適合性をクリアしたから安全ということではないことの確認。
- どんなに対策を尽くしても過酷事故は起こることがある。それを「想定外」というのは福一事故の教訓を学んでいないことになることの再確認。
(5.2.) 原発反対を考えるための基本的な視点と分析の観点
- 原発は人類(地球上の全生物)と共存できない。原発は未完成の技術―人類はまだ放射線を完全に制御する技術を持っていない。使ってはならない技術。原発を始めたころは、そのうち使用済み核燃料の最終処分問題を含め、放射線を完全に制御する技術が開発されるだろうとの見方があったが、半世紀以上たっても、全く展望は見出されていない。
- 原発の過酷事故が起こると、他の地上の事故や災害とは全く異質の性格をもつ、時間的・空間的・社会的な被害をもたらす。その根源的な問題は放射線にある。
- 原発問題を分析し、解明する観点として以下がある。
- 民主主義的観点(原発の建設・運転などについて住民の意見・意志を無視した進め方、やらせ問題、事実の隠蔽、廃棄物処理の押しつけ、補助金等による誘導と「買収」、地方自治の破壊)。
- 科学的・技術的観点(原発の本質的な問題、技術の特殊性と対応の限界、地殻変動の激しい日本での建設、核サイクル問題、使用済み燃料の保管と最終処分問題)。
- 医学的・疫学的観点(内部被ばく・低線量被ばくなどが健康へ及ぼす影響)。
- 経済的観点(安くない発電コスト、採算性の将来悪化・競争力の低下、電気浪費の促進、地域経済の異常な依存、地域経済生活のいびつな発展)。
- 環境的観点(ウラン使用に伴う環境の破壊、熱効率が低い、温排水の影響、放射性物質の放出)。
- 哲学的・倫理的観点(核の存在・核廃絶の問題、過疎地における原発建設、PAZ/UPZ協定と避難基準における差別、原発労働者・周辺住民などの被ばく)。
- 政治的観点(被爆国としての役割、エネルギーの安全保障、プルトニウム=核武装の可能性、エネルギー革命の阻害)。
- 社会科学的観点(破局的な大災害の可能性と事故時の激烈な影響、地域社会・家族・友人などの分断と破壊、反対者などへの差別)。
- 憲法に基づく観点(基本的な人権の制限、生存権・幸福追求権・人格権などの侵害、個人の尊厳との対立)。
(5.3) 避難計画をどう考えるか
- 住民にとってより切実な問題は、具体的な避難計画であり、そもそも実効性ある計画が作れるかという疑問と、UPZにおける被ばくを前提とした避難計画でいいか。
- 5 km圏と30 km圏の自治体と北電・北海道が締結した協定に差別があることは、それぞれの区域で避難基準が異なることと共通した問題で、原発の立地条件の設定の思想とも共通している。住む地域により人の命を差別している。
(5.4) 過酷事故の進展
- これをめぐって、避難計画作成の関係でいくつかの重要な質問がある。
- 過酷事故はどのようにして起こるか、過酷事故に至るまでどのように進展するか。
- メルトダウンはどれくらいの速度で進むか、どれくらい時間がかかるか(90分)。
- メルトダウンにより水素爆発や水蒸気爆発はどのように起こるか。
- それぞれの過酷事故発生に対して防止対策、それが突破された場合の対策はどうなっているか。それぞれの場合の放射性物質の拡散シミュレーションはどうなるか、その時の住民への影響はどうなるか。
- 最悪事故のシナリオとして何を考えているか。
例として、福一事故の時の最悪のシナリオ。近藤報告によると、4号機プールが崩壊し、使用済み燃料がメルトダウンした場合、関東圏を含み範囲に住む人4000万人が住めなくなり、避難しなければならない。あまりにもショッキングな話だったので当時公表されなかった。
(5.5) 内部被ばく・低線量被ばく・100 mSvの問題
- 内部被ばくと外部被ばくの違い。内部被ばくは長期にわたり深刻さを増す。
- 被ばく線量と健康障害の関係における確定的影響と確率的影響があり、後者が低線量被ばく。これが明らかになると原子力政策が破たんするので、触れたくない、認めたくない問題。それを支えているのが国内外の原子力関係機関と御用学者たち。ICRPもWHOなども同じ穴のムジナ。
- 低線量被ばく=確率的影響 閾(しきい)値はない。ICRPも認めている。100 mSvが閾値であるように言うのは間違い。放射線は低線量でも危険。甲状腺がんなど色々ながんのほかに免疫不全、不健康問題などがある。過去10年間余りにも低線量被ばくの影響を明らかにした学術論文が出ている。原発が廃炉になれば周辺の白血病や胎児・乳幼児の死亡が減るのはその例。
- 100 mSv説は犯罪的な役割を果たしている。低線量被ばくの被害はがんだけではない。「がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい」ということと影響がないということは別の問題。個人差がある。
(5.6) エネルギーベストミックスの問題
- 中長期エネルギー政策が原発を重要電源の一つとしているのが最大の問題。
- 原発の存在が再生可能エネルギーの普及を阻害している。
- 再生可能エネルギーの重要性は再生可能=無尽蔵、自給自足可能=国のエネルギー安全保障の上で重要、外貨流出なし。CO2排出なし。分散容易で、地域経済循環型、雇用創出に貢献。
- ドイツで再生可能エネルギー30%以上利用。先進例に学ぼうとしていない。
- 再生可能エネルギーは安心・安全な暮らしの保証。る核反応や放射線の制御、事故の影響の甚大さ、廃棄物処理の問題を回避できる→
(5.7) 核廃棄物の最終処分の問題
- 高レベル廃棄物の最終処分として、地層処分が国際的に考えられているのは事実であるが、実現しているところは一つもない。
- ドイツでは先進的に地下の岩塩採掘場を利用して廃棄物が埋められた失敗している。地層の割れ目から地下水が出たため、埋めた廃棄物を回収しようと苦戦している。
- アメリカでもロッキー山脈での地下処分が計画されたが、現在凍結されたままである。どの国も、周辺住民の根強い反対運動と技術的な難問に直面している。
- 日本の地層は欧州の安定した古くて強固な岩体に比べ、地殻変動が激しく、柔らかく、地下水が豊富であるなど、著しく異なり、適地とは決して言えない。
- にもかかわらず、国は適地を探そうとしているが、強引に進めると国民との対立が激化するのは明らかであり、段階的に進めることになっている。
- 「科学的な」適地選定の名による、処分候補地選びは火山から15km以上、断層からその長さの1/100離れていればよく、さらに海岸から20km以内などの条件を満たせばよいことになっている。到底受け入れがたい基準である。
- 何千年、何万年にもわたる長期間、地層が安定であることを予測したり、保証したりすることは、そもそもほとんど不可能である。
6.原発に将来性はない。今後の活動について
(6.1) 原発に未来はないが、ほしい国もある
- 原発は世界中で今も稼働している。先進国では一部の国で古い原発の建て替え計画(イギリス、スウェーデン)が進んでいる。また安全策を大胆に強化した欧州型原発の建設(フランス、スウェーデンなど)が進んでいるが、建設コストが大幅に上昇しているため、他の火力発電などによる発電コストをくらべ、競争力を失い、採算性がないと指摘されている。全体としては原発の建設計画の中止(アメリカ)、廃炉決定(ドイツ、スイス、オランダ)、原発の割合縮小(フランス)などにより、原発の機数も総発電量も減り続けている。明らかに凋落傾向にあり、明るい未来は見えない。
- 発展途上国では原発が増え続けている。中国が最近の新規原発建設の半分を占め、建設計画も多い。南東アジアや南アジア、中東、アフリカなどの国々で建設計画が目白押しだ。
- これらの国々には資源の賦存状況、科学技術の発展度、財政事情、経済成長における電力の需要度などの特別の事情や課題がある。そのもとで日本は財政的な支援(借款)や技術援助などを条件に原発の輸出を狙っている。しかし、放射線や原発の安全性の問題は、安全神話を振りまく中で「棚上げ」にされている。
(6.2) 原発はなぜ世界にはびこり、のさばってきたか
- 不完全で危険な原発がはびこっている理由について、核エネルギーの特徴と原発の開発・推進の歴史的背景の2つからかんがえることが重要となる。
- 核エネルギーの反応(核の分裂反応と融合反応がある)によって発生するエネルギーは地上で通常起こっている化学反応によって発生するエネルギーよりも桁違い(1万倍から10万倍)に大きい。これが核反応の最大の誘惑であり、夢物語だ。さらに原発は燃料を交換することなく1年間以上使用できることも大きな魅力だ。
- 核反応には同時に魔力も潜んでいる。それは、初めのウランの掘削から燃料の製造、原発の運転、そして最後の使用済み核燃料の最終処分まで、放射性物質・放射線を扱わなければならず、被ばくなしには利用できない宿命だ。放射線の制御を失うと、化学エネルギーよる事故とは根本的に異なる、(桁違いの)極めて過酷な事故を招くという特性を持っている。
- 原発は原爆開発の落とし子である。核エネルギーをゆっくりと放出させるのが原発であり、一瞬で放出させるのが原爆だ。戦後の核兵器開発競争は、死の灰の拡散による全地球的規模の放射能汚染問題を引き起こした。原爆大国がその責任を問われる中で、核兵器を維持しつつ、いわゆる核=原子力の「平和利用」が喧伝された。
- 軍事利用である原子力潜水艦の原発が、現在の商業用原発の原型である。この出自からわかるように原発は大国の国策を背景に、国家と巨大な産軍複合体(軍事関連の大企業と軍隊)の連携により、開発・推進された。そのため、原発は初めから機密主義の性格を持っている。そのもとで、世界的に管理され、支配される構図が出来上がった。これが今も原発がこの世にはびこっている理由である。
- もし、原発が、企業だけで開発された技術であり、実際に利用されたものであったら、これだけの重大事故を繰り替えし起こした後は、この社会から退場を求められ、使われなくなっていたはずである。しかし、原発は国策や軍事、それと結びついた大企業が背後にあるからこそいまものさばっているのだ。
- 原発がはびこり、のさばっている背景ゆえに、住民の力だけで原発を止めたり、廃炉にしたりする運動が困難を極め、息の長い闘いが必要となっている理由でもある。
- 原発が初めて日本に導入されたのも、大事故を経験した後も原発が維持されているのも、政治的な選択であり、政治的決断だ。福一事故後、ドイツは2020年まで原発を全廃することを政治決断した。日本でも、予想震源の真上にあり、最も危険だと言われていた、浜岡原発は政治決断で運転停止となった。
- 福一事故後、安全神話が崩壊し、国民の原発に対する意識は大きく変わった。全国民にとって、原発は他人ごとから自分ごとになった。多くの国民が、明確に原発反対の意思を表明し、粘り強い国民的運動を続けている。
- したがって、原発をなくするためには、国民の過半数がそれを願い、それを決断する政治を実現することが必要である。国民一人一人が、選挙で廃炉を決断する政党を自分の意志で選び、それが国会で過半数を占めることができれば、原発のない日本が実現する。今その可能性がある。
(6.4.) 安全協定の見直し、改訂を
- 安全確認協定と安全協定との条文は同じにすべきだ。差別する理由はない。人の命、人格権に対する差別の撤廃を求める。
- 過酷事故時に放射性物質の拡散は同心円で拡散するわけではなく、風の流れに沿って方向は変化し、遠方へも広がる。5kmと10km圏の間に違いがないことは福一原発事故で証明されている。泊原発の拡散シミュレーションでも同じように予想されている。住む場所によって住民の命の重さに違いはない。
- 泊原発は他の原発立地周辺にくらべ特異的な人口分布をしている。6~8kmの範囲内に人口密集地(岩内町・共和町)があり、その先約15~20kmの範囲内に人がほとんど住んでいない。20~30kmの南東および北東方向に人口密集地がある。
(6.5) 泊原発周辺の特殊な環境を考慮して、独自の避難判断基準の設定を
- 泊原発周辺の地形、人口分布、気象、拡散予想などの特異性や特徴に基づき、地域に見合った避難計画を作るべきである。
- 過酷事故時には原発から10~15kmの範囲内、すなわち岩内平野の住民すべてが、優先的に直ちに避難できる計画作成の検討を行う。もし実効的な計画の作成が困難な場合は直ちに廃炉にすべき。
(6.6) 新たな連携運動の発展を