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NO NUKES,ONE LOVE

科学的有望地の要件・基準に関する地層処分技術WGにおける中間整理 に対する意見(小野有五)

科学的有望地の要件・基準に関する地層処分技術WGにおける中間整理

に対する意見

 .氏名 小野有五 ・ 土井和巳**          

(2所属・3専門・4所属学会)

2.北海道大学名誉教授, 北星学園大学教授;理学博士;「行動する市民科学者の会・北海道」

3.地形学、第四紀学

4.日本地理学会、日本第四紀学会、東京地学協会、環境社会学

**2.元・燃料公社、動力炉・核燃料開発事業団職員;工学博士;「行動する市民科学者の会・北海道」、3.地質学;4.元・原子力学会(現在は所属学会なし)

 5.意見

 平成27年12月にまとまられた「科学的有望地の要件・基準に関する地層処分技術WGにおける中間整理」を拝見させていただいた。第1章にあるように、この中間まとめは、地層処分の「科学的有望地の要件・基準について地球科学的な観点から」(p.1)なされた議論の結果をまとめたものである。したがって筆者らも地球科学的な観点にたって批判を行う。

 

 I.「技術WGでの検討における前提の整理」の問題点

「安全性確保の観点から相対的に適性の低い地域を予め調査対象から除外することによって安全を第一に処分地選定を進めることに資する」(第2章、p.3)とされているが、本当に国民の安全性確保を目的とするであれば、まず、日本列島全体を地球上の他地域と比較し、地層処分における日本列島の適正性が、相対的にどれほど高いか低いか、を議論するべきであろう。

なぜならば、第4章(4.5.1)においては、「わが国は、諸外国と比較すると、一般的に天然現象の発生頻度が高く地質構造が複雑であり将来の予測が比較的難しいことが多い場合があると考えられる」(p.52)との認識が示されているからである。ここで「一般に天然現象の発生頻度が高く」とは非科学的な文章である。およそ「天然現象」とは、国や地域のちがいに限らず、すべてのところで起きることであり、「わが国だけで発生頻度が高い」というのは明らかに誤りである。

ここでWGが問題としている「天然現象」とは、地層処分に影響を与える「天然現象」の意味であろうから、当然この文章は、本WGが具体的に検討している「地震や火山、津波などの天然(自然)現象の頻度が我が国では、諸外国と比較すると高く」と修正すべきであろう。そうであるならば、WGも「我が国は地層処分に影響を与える自然現象の起きる頻度が、諸外国と比較して高く、また地質構造もより複雑であり、したがって将来の予測が比較的難しい」(下線は筆者らが加筆)と認識したうえで諸外国との比較を行っていることになる。問題は、WGがそのように述べつつ、地球科学的な比較を何一つ行っていないことである。地層処分においては、周知のように、諸外国でもその計画が進められ、さまざまな検討がなされている。1992年までのドイツ、スウェーデン、スイス、アメリカ合衆国での状況については、土井(1993、pp.70~96)もまとめているとおりである。しかし、その後、フィンランドのオルキルオトを除くすべての地層処分候補地では、地球科学的・社会科学的な検討・議論により、すべての地層処分計画が中断されているのが現状である(土井、2014、pp.51~60)。

 WGはまず、このような「我が国よりも相対的に地層処分に問題となる自然現象の頻度が小さく、地質構造もより単純であり、したがって将来の予測も比較的容易である」はずの諸外国の地層処分候補地の自然条件を地球科学的に把握し、地震、断層、火山、津波、地下水など、地層処分への脅威となる地球科学的条件を我が国と比較すべきであろう。日本列島における地層処分の適正性は、地球科学的に見たこのような諸外国との相対的な比較のうえに立って初めて判断されるべきものであり、今回のWGの議論の前提のように、いきなり国内に限って比較を行っても、科学的な意味はない。

 原子力発電所の安全性については、安倍首相も、日本のような地震国においては「世界で最高水準の安全基準が必要」と強調しているとおりである。日本列島が地球上でもっとも活発な変動帯にあることを考慮すれば、世界でもっとも厳しい安全基準を設定することは当然のことといえよう。しかし、現在の安全基準はいまだ不十分である。国内だけでA地よりB地が適当、という議論は、A地なら諸外国の適正基準をクリアしているが、B地では不合格、という国際的な比較と科学的裏付けがない限り、科学的には無意味であろう。科学的に、あるいは国際的に、60点以上が合格という認識があるところで、20点の場所より40点の場所が適している、といっても意味がないことは自明である。

 小野(2001;2006;2013)は、地理学者として、核燃料サイクル開発機構(1999)によるいわゆる『第二次とりまとめ』に対する批判を行った際、「日本列島のような世界でも最も活動的な変動帯での原発の建設や高レベル廃棄物の地層処分を、楯状地のまわりにある安定大陸での原発建設や地層処分と同じ程度に安全と言っていいか」と述べた。結局のところ、今回のWGでも、こうした比較がまったく行われていないことが、最大の問題である。食品の安全性、医薬品の安全性など、すべて国民の生命や健康に重大な問題となるものの安全性は、諸外国での安全基準を比較しつつ議論されており、検討されて当然である。原発においても、3.11以後は、まだまだ不十分ながら、3.11以前に比べれば海外での安全基準が重視されるようになってきた。地層処分の安全基準だけが、諸外国での厳しい基準と無関係に決められてよいわけはない。これでは、国民の安全は守れない。

 

 II. 各論

 以上のように、WGによる「中間まとめ」は、地球科学的に見た国際的比較を行っていない点で本質的な欠陥をもっており、まずそこを根本的に改めるべきであるが、国内だけの検討においても、以下のような問題点が見られるので、それらについても批判したい。

 

(1)火山、とくに巨大カルデラの問題

 回避すべき範囲として、「第四紀火山中心から15km、および第四紀火山活動範囲が15kmを超える巨大カルデラの範囲」とされている(第4章、p.14、および表4.2.3.1.1)。ここでいう「巨大カルデラの範囲」は、産総研によってまとめられた『日本の火山(第三版)』で、「カルデラ火山」の範囲として地図上に塗色されている範囲を指すと理解される。しかしながら『日本の火山(第三版)』で「カルデラ火山」の範囲として地図上に塗色されているのは、現在、堆積物として残っている火砕流の流下範囲にすぎない。確かに巨大カルデラについては、「上記の範囲を超えることもあるから、現地調査の結果にもとづいて評価する」(p.13)とされているが、現実には、未固結の火砕流は容易に侵食されて堆積後に消失するから、たとえ現地調査を行ったとしても、噴出時の火砕流の流下範囲を残存する堆積部だけから判断することは、その範囲を過小に評価する惧れがあるといえよう。

さらに問題なのは、第四紀の後期更新世に活動した「巨大カルデラ」だけを見ても、大規模火砕流はプリニアン式の巨大噴火を伴い、火砕流と同時的に噴出し、灰神楽状に巻き上げられた後、降下・堆積した厚いco-ignimbrite ashを広域に分布させている事実である。これらは、「広域火山灰(テフラ)」(町田、1987)と呼ばれており、九州南部の姶良カルデラから噴出した姶良・丹沢火山灰(AT)、阿蘇カルデラから噴出した阿蘇4火山灰(Aso-4)は、いずれも給源である九州から北海道にまで広く分布している(日本第四紀学会、1987)。また北海道内の支笏カルデラから噴出した支笏降下軽石1(Spfa1)や洞爺カルデラから噴出した洞爺火山灰(Toya)も、北海道を広く覆うだけでなく、後者は東北地方北部にまで及んでいる。いずれの広域火山灰も,給源から遠くなるにつれてその厚さを減じていくが、たとえば洞爺火山灰では、風下側では給源から200km以上離れてもなお30cm以上の厚さがあり、20cmの等層厚線はカルデラから230km、10cmの等層厚線は300km以上にも達している(町田ほか、1987)。地層処分は地下だから火山灰は関係ないと思われがちであるが、厚さ数十センチメートルもの火山灰の堆積は、地上施設にとっては無視できない。またこれらの厚く堆積した火砕流や火山灰堆積物は、その浸透能などの特性から新たな帯水層を生み出し、地域の地下水環境にも大きな影響を与える可能性がある。

 さらに、巨大カルデラは、10万年という時間のなかでは再び形成される可能性がじゅうぶん高い。カルデラ形成がまったく同じ地点で起こるとは限らず、またその規模は、過去最大を上回る可能性も充分にある。この意味でも、現在残っている火砕流の分布範囲だけを避ければ安全という「中間まとめ」の基準は、今後10万年間を考えると、あまりに甘いと言わざるをえない。

 Iでの批判との関わりでいえば、処分地の適正性の評価にあたり、諸外国の事例では、このような大規模火砕流・テフラをもたらす巨大カルデラが地層処分候補地の近傍にあるか否かを、その規模や噴火史、広域テフラとの関係とともにまず比較、検討すべきであろう。

(2)断層の問題

 「中間まとめ」では、「回避すべき範囲」として「最近の地質時代において繰り返し活動し、変位の規模の大きい既知の断層がある場所について、破砕帯の幅として保守的に断層長さの100分の1程度の範囲」、また“「断層の長さ」のとらえ方には幾つか種類があることから、短い長さ(活動セグメント長さ)で影響範囲である幅が狭くなる場合を「回避すべき範囲」、長い長さ(起震断層長さ)で影響範囲である幅が広くなる場合を「回避が好ましい範囲」とすることが適当“としている (第4章、p.20 )。

 しかし、小野(2001、2006、2013)がすでに批判したように、全国的な活断層の調査が進んだとはいえ、空中写真判読や現地調査、トレンチ掘削などによっても、日本列島すべての活断層がとらえられているわけではない。活断層が知られていなかった場所で起きた鳥取県西部地震(石橋、2000)のような事例もあれば、中越沖地震の起震断層のように、海底音波探査で発見できない断層もある(鈴木、2013)。

 「中間まとめ」では、調査スケールと空間スケールのイメージとして図3.4.1のような模式図が示されている( p.8 )。ここに描かれているのは、火山は単生火山だけであり、断層はある場所に1つだけ存在するという、極めて単純化されたモデルである。ここには、火山と断層の位置さえ避ければ、わずか数キロメートルの範囲におさまる地層処分地の候補地は、日本列島には潜在的に極めて広く存在するという『第二次とりまとめ』の結論が、そのまま示されているといえよう。「中間まとめ」は、たんにそれを繰り返しているにすぎず、藤村ほか(2000)の批判にもまったく答えていないと言わざるを得ない。

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藤村ほか(2000)が示したのは、下の図のような、太平洋プレートの沈み込み帯にあって、

至る所に未知の活断層が存在しうるという、日本列島の現実に即したモデルであった。

 

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 図3.4.1と、藤村ほか(2000)の図と、どちらが地球科学的に見て日本列島の現実の地下構造をより現実的に表現しているかは、明らかであろう。筆者らが本意見のI.で述べたことは、こういうことである。すなわち、世界のすべての地層処分候補地について、まず藤村ほか(2000)が模式的に示したような全体的なテクトニクスのなかで地層処分候補地を位置づけ、それらを比較して、地層処分地としての適正性を検討してほしい、ということである。

 「中間まとめ」では、「起震断層の認定に際して、世界の主要な主断層帯の幅や主断層帯を構成する地震断層線とそれに付随して動いた副断層の中点との間の距離などから、相互間隔の目安を5kmと設定した」(p.20 注)と書かれている。このように、「中間まとめ」においても、日本国内だけでなく、世界の断層の実体を考察したうえで検討がなされている部分も見られるのであるから、それをさらに徹底して、世界の地層処分候補地が、それぞれどのようなテクトニクスの場にあるかを明らかにし、そこでの活断層の密度や再来期間、地層処分候補地と活断層との距離などを日本列島の場合と比較することから、適正性の検討を始めるべきであろう。

 

(3)地下水の問題

「中間まとめ」は、水理場について、“閉じ込め機能から見た好ましい地質環境特性は「地下水流動が緩慢であること」であることから(表4.2.2.1.1.)、「好ましい範囲」の要件としては「処分深度で安全性が大きく向上する程度に地下水流動が緩慢であること」と設定できる”としている(第4章、p.25)。だが、地層処分に影響を与えるのは、たんに地下水流動の速さだけではない。地下水の量も極めて重要である。まったく地下水の存在しないような地域と地下水の豊富な地域とでは、同じような勾配をもったところでも、その影響はまったく異なる。この意味では、まず、世界の地層処分候補地と日本列島での地下水環境について地球科学的に比較し、地層処分に対する適正性を相対的に比較、検討することが必要である。土井(2014;pp.83~88)は放射性廃棄物管理と降水量・地下水の関係について論じ、日本列島の降水量は、世界のすべての地層処分候補地に比べて著しく多いことを示し、地層処分には不適当であるとした。ここでは、降水量と地下水量との関連までは示されていないが、蒸発散量が極端に違わなければ、両者は相関すると考えてよいであろう。WGは、世界の地層処分候補地と我が国での地下水量の厳密な比較を行い、地層処分への影響を定量的に比較検討して、地層処分の適正性の評価を行うべきである。

 

III.  結語

 以上、各論では、火山(巨大カルデラ)、断層、地下水の3つの問題にとどめたが、すでに本意見のI.で述べたように、これらのそれぞれについて世界の地層処分候補地のデータを明らかにし、それらとの比較をまず行って、日本列島での地層処分の適正性について国際的にみた相対評価を行うべきである。それが今後の日本における地層処分の可否を決めるうえでの喫緊の課題であることを、再度、強調しておきたい。地層処分における工学的な対応は、その上に立って検討されるべきである。地層処分のための自然的条件の悪いところでは、条件の良いところに比べてより高度な工学的・技術的対応が必要となるのは当然である(土井、1994)。どの程度まで高度な対応が必要となるかは、自然条件のちがいを把握しない限り、検討できないはずである。海外の地層処分候補地で検討されている工学的・技術的対応を明らかにしたうえで、我が国の自然条件においては、それをどれだけ超える工学的・技術的対応が必要なのかを明らかにしなければ、国民の安全は確保することができない。WGは、ここに述べたように、まず世界の地層処分候補地の自然条件と我が国の自然条件との地球科学的な比較・検討を行い、我が国における地層処分の適正性を相対的に評価したうえで、次の段階に進むべきである。

 

6 引用文献

小野有五(2001)「高レベル放射性廃棄物の深地層処分をめぐる活断層研究の社会的責任。

日本地理学会2001年春季大会予稿集、59、p.85

小野有五(2006)人間を幸福にしない地理学というシステム----環境ガバナンスの視点から見た日本の地理学と地理教育---E-Journal Geo,1,(2),pp.89-108

小野有五(2013)『Active Geography たたかう地理学』 古今書院、pp.155~169 に再録。

土井和巳(1993)『そこが知りたい 放射性廃棄物 用語解説付き』日刊工業新聞社、222p.

土井和巳(1994)高レベル放射性廃棄物の『処分』は可能か 地球科学の現状と課題、

 原子力工業、 50、(5)、63~69.

土井和巳(2014)『日本列島では原発も「地層処分」も不可能という地質学的根拠』合同出版、150p.

藤村陽・石橋克彦・高木仁三郎(2000)高レベル放射性廃棄物の地層処分はできるか I、 科学、70、1064~1972

石橋克彦(2000) 鳥取地震安全神話への警告、 朝日新聞2000年11.1朝刊.

核燃料サイクル機構(1999) わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性――地層処分研究開発第2次取りまとめ総論レポート、JNC TN140099-020

町田洋(1987) 広域火山灰について(コメント)、第四紀研究、25、265-268.

町田洋・新井房夫・宮内崇裕・奥村晃史(1987) 北日本をおおう洞爺火山灰、第四紀研究、26、129-145.

日本第四紀学会(編)(1987)『日本第四紀地図』、東大出版会.

鈴木康弘(2013)『原発活断層』岩波科学ライブラリー、110p.

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※ 小野有五 : 行動する科学者の会 事務局